冷え込みの厳しい夜だった。 ふと思い立って戸棚の奥を探ってみれば、
昨年末に清水の舞台から飛び降りる気持ちで買った餅が手付かずのまま残っている。
この寒さだ。胃の腑から温まるような何かが食べたい。
餅を入れるなら、やはりうどんだろう。 最初は鍋焼きうどんを思い浮かべたが、
今の気分はもう少し濃厚なもの、そう、味噌煮込みうどんだ。
台所に立ち、準備を始める。 あいにく鶏肉は切らしているから親子うどんにはできないが、
その代わりに卵をひとつ落としてやろう。それだけで、随分と贅沢な景色になるはずだ。
今日の手札は、名古屋名物スガキヤの味噌煮込みうどん。
こんな最果ての地にあるスーパーの棚に、ナショナルブランドの商品が並んでいる不思議。
物流の神様がこの地を走ることを許してくれたおかげで、
私は今、この味にありつけるのだ。
四畳半の狭い部屋に、カセットコンロの火が灯る。 やがて鍋から立ち上ったのは、
食欲をそそる味噌の香りと真っ白な湯気。 窓の外の寒気とは無縁の、
小さくて確かな至福がここにある。
ふうふうと息を吹きかけ、熱々のうどんを啜る。 餅がとろりと溶け出し、
卵の黄身が絡む。 ただそれだけのことが、凍えた心まで解かしていくような気がした。


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