どんぶり

 キッチンに立ち、お腹の虫と相談する。今日の気分は、迷うことなくどんぶりものだった。

親子丼がいい。そう決めて冷蔵庫を覗くと、まずは主役の一角である卵と目が合った。

どんぶりものにおいて、卵の存在は絶対だ。親子丼にしろ、かつ丼にしろ、

あの黄色いとじ目がなければ始まらない。

かつ丼は揚げる手間を考えると少しばかり敷居が高い。やはり初志貫徹で親子丼にしよう。

そう思ってさらに庫内を探るが、あるはずの鶏肉が見当たらない。やってしまった。

買い出しを忘れていたらしい。

手元にあるのは卵と玉ねぎ。親子丼に玉ねぎは欠かせない名脇役だが、主役の鶏が

いなければ舞台は成立しない。牛肉や豚肉を使った他人丼という選択肢も頭をよぎったが、

あいにく他の肉類も一切底をついていた。

こうなれば、あるもので何とかするしかない。

たまご丼。そう、今日はたまご丼だ。方向転換と言えば聞こえはいいが、

作り方は親子丼と全く同じ。ただ単に鶏肉が入っていないだけのこと。

自分を納得させるようにトントンと玉ねぎを刻み、手早く火を通した。

ほどなくして、たまご丼が完成した。



見た目は悪くない。黄金色の卵が玉ねぎを優しく包み込んでいる。

期待を込めて一口運んだが、口の中に広がったのはなんとも頼りない味だった。

鶏肉から出るはずの旨味がまったくない。それ以前に、全体的に味がぼやけている。

しまった。

出汁の素を入れ忘れていた。酒とみりんと醤油、それに玉ねぎから出たほんのりとした

甘み。素材の味と言えば聞こえはいいが、要するにパンチが足りないのだ。

出汁の重要性を、鶏肉がいないこのどんぶりが、身に沁みて教えてくれていた。

次はちゃんと、鶏肉と出汁の素を用意しよう。少しだけ物足りない昼食を咀嚼しながら、

私は心に決めた。

コメント