三月の風は、築五十年の木造アパートの隙間から遠慮なしに忍び込んでくる。
オイラはボロい毛布にくるまりながら、カチカチと鳴る安いガスコンロの火を
見つめていた。
今日のご馳走は、特売で買った袋入りのゆでうどんと、いつから冷蔵庫に
あったか分からない、しなびた油揚げだ。
これを醤油と砂糖でテキトーに煮詰めて、即席のきつねうどんを作る。
四畳半の部屋には、小さなテレビと万年床、それに読み古した文庫本の山しか
ない。壁は薄くて、隣の部屋のオヤジが咳き込む音まで筒抜けだ。
でも、鍋から立ち上がる湯気を見ていると、なんだかここが世界で一番落ち着く
場所に思えてくるから不思議なもんだよな。
どんぶりに移したうどんの上に、甘辛く煮た油揚げをのせる。
見た目は茶色一色で、お世辞にも華やかとは言えない。
だけど、一口すすると、出汁の香りが鼻に抜けて、凍えた胃袋がじんわりと
ほどけていく。
「ふぅ……生きてるなぁ」
誰に聞かせるわけでもなく、独り言がこぼれた。
油揚げを噛みしめると、じゅわっと甘い汁が溢れ出す。
高級な店の味じゃないけれど、今のオイラにはこれ以上の贅沢なんて
思いつかない。窓の外では都会の騒がしい音が聞こえるけど、
この四畳半の中だけは、穏やかな時間が流れている。
さて、食べ終わったらまた少しだけ、書きかけの原稿でも進めるかな。
明日のパン代くらいは稼がないといけないし。
どんぶりの底に残った汁を飲み干して、オイラは小さく息を吐いた。
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