窓の外から、どこぞの家のカレーの匂いが流れてきやがった。けしからん。
実にけしからん。こっちは、湿気た畳の匂いがおかずだってのに。
胃袋が「なんか入れろ」と騒ぎだしたから、重い腰を上げた。
ガスコンロの火は、相変わらず機嫌が悪くてチロチロとしか燃えない。
鍋に水を張って、出汁なんて高級なもんはないから、味噌を少し溶かす。
そこに放り込むのは、袋の底で粉々になりかけてた、お徳用の「焼き麩」だ。
今日のメインディッシュは、麩だけの味噌汁。
具が麩だけっていうのは、見た目がなんとも心もとない。
お椀の中でプカプカ浮いてる姿は、まるで大海原を漂流する小舟みたいだ。
でもな、これがバカにできないんだ。
熱い汁を吸ってパンパンに膨らんだ麩を、ハフハフ言いながら口に運ぶ。
噛んだ瞬間に、じゅわっと味噌の味が口の中に溢れ出す。
中身は空気みたいなもんなのに、この「食べてる感」だけは一人前なのが、
なんとも愛嬌があっていい。
ズズッ、と汁をすする。
具が他にない分、味噌の味がダイレクトに五臓六腑に染み渡るぜ。
豆腐があれば、とか、ワカメがいれば、なんて贅沢は言わない。
今のオイラには、この温かさだけで十分すぎるくらいだ。
最後の一滴まで飲み干すと、心なしか部屋の寒さが和らいだ気がした。
……まあ、すぐに腹が減るのは目に見えてるけどな。
なんせ、さっき食ったのは「味のついた空気」みたいなもんだし。
次は、この麩をご飯に乗せて「麩丼」にでもしてやろうか。
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