夕暮れ時のスーパー、精肉コーナー。 僕の視線は、一点を凝視していた。
ターゲットは「豚バラ肉」。
今夜はこってり、味がしみしみの豚バラ大根を作ると決めていたんだ。
でも、いざ目の前に並ぶパックを見て、僕はフリーズした。
……高い。
いや、わかってる。わかってるんだ。
豚バラ大根という料理において、あのあふれ出す脂こそが本体だということも。
大根がその脂を吸い込んで、琥珀色に輝いてこそ正義だということも。
でもね、ふと隣を見たんだ。
そこには「豚小間肉」という、なんとも庶民の味方が鎮座していた。
値段は豚バラの約半分。 この圧倒的な価格差を前にして、僕の決意はあっけなく揺らぐ。
そもそも豚小間って、いろんな部位の切り落としなんだよね? だったら、
その中には「ちょっと空気を読んで脂身多めに入っちゃいました」みたいなラッキーな
やつも混ざってるはずじゃないか。 それなら、もう豚小間でいいんじゃないか?
「……よし、君に決めた」
僕は自分を納得させるように、豚小間のパックをカゴに放り込んだ。
豚バラを買いに来て、豚小間を買って帰る。 これは敗北じゃない、戦略的撤退だ。
さあ、キッチンに立って調理開始。 意気揚々とフライパンを取り出し、
僕は高らかに宣言する。
「今からこれで、豚バラ大根を作るのじゃあ!」
……あ、待てよ。 豚小間肉で作るなら、それはもう「豚小間大根」なんじゃないか?
名前からして、あの脂の暴力的な旨味が消え去ったような気がするけれど、
まあ細かいことは気にしないでおこう。
大根よ、小間の脂でも我慢してくれ。 お財布には、こっちの方がずっと優しいんだから。
まずは大根をひたひたの水で煮るところから始める。いわゆる下茹でという代物だ。
ある程度大根が軟らかくなったら、酒とみりんを適当に入れ、豚小間を放り込む。
これで豚小間からうまみが大根に届くはず。
そして豚小間の色が変わったらめんつゆと醤油を入れるのだ。
あとは大根がシミシミになったら完成なのだ。
おっととと、大根は汁が冷えていく過程でシミシミになっていくのだった。
むかしむかし浸透圧って習ったような気がするが確かではない。
しかし、ガス代金の観点から火を止めたほうがいいに決まっている。
「しばらく放置しておこう」
なぜ、豚バラ肉なのか?豚バラ肉と豚小間肉をパックの上から観察してみると
たしかに豚バラ肉のほうが赤みの肉より白い脂身が多い気がする。
いつも行くスーパーでも豚バラ肉も脂身を前面に出してはいるが豚バラ肉には、
かなわない気がする。相対的に見てやはり豚バラ肉のほうが味がいいのだろう。
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