ここは最果ての地の片隅、築40年のボロアパート。
畳は擦り切れてささくれが刺さるし、窓の外に見えるのは隣の家の換気扇だけ
っていう、絵に描いたような貧乏四畳半さ。
最近までちょっと腹を壊しててさ、いわゆる低残渣食ってやつで海藻類を
禁じられてたんだ。でも、人間ダメって言われると無性に欲しくなるもんだろ?
頭の中が真っ黒なひじきでいっぱいになっちまって、居ても立ってもいられず
スーパーへ走ったわけ。
ところがどっこい、世の中は値上げの嵐だよ。
昔は100円玉でお釣りが来た惣菜パックが、今じゃ135円だってさ。
しかも上げ底で、中身は雀の涙ほど。一口で「ごちそうさま」って、
オイラの胃袋を舐めてんのかい。
タイムマシンがあったら10年前の特売日に戻って買い占めたいところだけど、
そもそもタイムマシンを買う金もありゃしねえ。
「こうなりゃ、意地でも自炊してやるぜ」
そう決意して、98円の乾燥ひじきの袋を掴み取った。
これなら水で戻せば増えるしな。さっそく四畳半の隅っこにある、
カセットコンロ一つのキッチン(というか、ただの板の間)で調理開始だ。
ボウルに乾燥ひじきを放り込んで水を注ぐ。
しばらく眺めてると、おいおい、笑っちゃうくらい膨らんできやがった!
カサカサだった黒い物体が、水を吸ってツヤツヤと輝き、生命を宿したみたいに
モコモコと増殖していく。この「増える」っていう現象、
貧乏人にはたまらない快楽なんだよな。
でも、ひじきだけじゃさすがに寂しい。
冷蔵庫の隅っこで縮こまってた人参の欠片と、特売のちくわを引っ張り出す。
人参は千切りにして、ちくわは適当に乱切りだ。
ここでオイラのこだわりが炸裂する。まずはフライパンにごま油を引くんだ。
ひじき煮っていうのは、最初から煮るんじゃねえ。
油でしっかり炒めるのが鉄則さ。
ジューッという景気のいい音とともに、ごま油の香ばしい匂いが四畳半に
充満する。この瞬間、この部屋は高級割烹に早変わりだ。
ひじきが油を纏ってキラキラ光り始めたら、人参とちくわを投入。
全体が馴染んだところで、醤油、酒、砂糖、そして出汁を少々。
あとは中火で汁気がなくなるまでじっくり煮詰めていく。
煮汁がひじきの中心まで染み込んでいくのを待つ時間は、まるで宝くじの
当選発表を待ってる気分だよ。
完成したひじき煮を、少し欠けた茶碗に盛った白飯の上にドサッと乗せる。
いざ、実食。
口に入れると、まずはごま油の風味が鼻を抜け、その後にひじきの磯の香りと、
甘辛い醤油の味が追いかけてくる。人参は程よい歯ごたえを残し、
ちくわは煮汁をたっぷり吸ってジューシーだ。うめえ……。
噛みしめるたびに、胃袋が「待ってました!」と歓喜の声を上げているのが
わかるぜ。
135円のスカスカな惣菜とは比べ物にならないボリュームと満足感。
窓の外から漂ってくる隣の家の晩ごはんの匂いにも、今日ばかりは負ける気が
しねえな。
安くて、増えて、体にいい。ひじきは貧乏四畳半の救世主だよ。
さあて、残りは明日のおにぎりの具にするかな。
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