紅しょうがのお好み焼きもどき

 窓を開けると、北の果ての冷たい風が四畳半の畳をなでていく。

水平線の向こうには、どんよりとした雲が低く垂れ込めているけれど、

オイラの心は今日も快晴だ。

さて、冷蔵庫の隅っこで真っ赤な顔をして出番を待っているアイツ、紅ショウガを

どうにかしてやろうと思う。

吉野家じゃあんなに親友みたいにガシガシ食えるのに、スーパーで買ってきた

袋入りはどうしてこうも距離感があるんだろうな。

焼きそばの上にちょっと載せたくらいじゃ、アイツらの大軍勢はびくともしない。

でも、腐らないのをいいことにいつまでも居座らせるのも忍びないから、

今日はオイラ流の紅ショウガ主役祭りを開催することにした。

牛肉が高くて買えないなら、もっと身近なアイツに頼ればいい。

そう、天ぷら粉だ。

まずはボウルに粉と水を適当に入れて、さっくり混ぜる。

そこに、余って仕方のない紅ショウガをこれでもかってくらいぶち込むんだ。

汁気は軽く切るのがコツだけど、オイラは面倒だからそのままドバッと

いっちゃう。

この、着色料の鮮やかなピンク色が真っ白な衣に混ざり合っていく様は、

まるで雪国に一足早く春が来たみたいで、見てるだけでウキウキしてくる。

フライパンに少し多めの油を熱して、紅ショウガの塊をポトポト落としていく。

ジュワッという景気のいい音とともに、鼻を突く酸っぱい香りが狭い部屋

いっぱいに広がる。この香りが食欲のスイッチを強引にオンにするんだ。

そもそも紅ショウガってのは、ショウガの辛味成分であるジンゲロールが、

梅酢の酸と出会って生まれる芸術品なんだよ。

殺菌作用もあるし、胃腸を元気にしてくれる。

おひとり様の寂しい食卓を彩るには、これ以上ない相棒じゃないか。




揚がった紅ショウガのかき揚げを、さっそくハフハフしながら頬張る。

 サクッとした歯ごたえの後に、あの独特の酸味とツンとした刺激が

突き抜けていく。

うまい。これだよ、これ。ソースなんていらない。

この塩気と酸っぱさだけで、安物の焼酎が高級シャンパンに思えてくるから

不思議だ。

窓の外ではカモメが鳴いている。

オイラの四畳半は狭いし、牛肉は買えないけれど、こうして紅ショウガひとつで

最高に贅沢な気分になれるんだから、人生捨てたもんじゃない。

余って困るなんて言ってた過去の自分に教えてやりたいよ。

紅ショウガは、脇役じゃなくて、立派な主役になれる逸材だってことを。

さて、残りの紅ショウガも全部揚げて、明日の朝飯の分まで作っちゃうとするか。

手間は一度で済ませるのが、賢いおひとり様の生きる知恵ってやつさ。



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