野菜ましまし焼きそば

 窓の外は、どこの誰が捨てたかもわからねえ錆びついたトタン屋根が

夕陽を跳ね返してやがる。

この最果ての地じゃ、豪華なディナーなんてのは夢のまた夢。

でもよ、オイラにはこの四畳半の城と、安売りの殿堂で手に入れた

「3食パックの焼きそば」があるんだ。

麺類ってのは本当に貧乏人の味方だよな。

1玉ずつ買うより、3玉セットの方が数円お得。

その数円で明日、もしかしたらうまい棒が買えるかもしれない。

そう思うと、賞味期限とにらめっこしながら、一番日付が遠いやつを

棚の奥から引っ張り出す指先にも力が入るってもんだ。

さて、今夜は「野菜ましまし焼きそば」といこう。

 まずは、しなびかけのキャベツを豪快に手でちぎる。

包丁なんて洗うのが面倒だからな。

もやしは袋のまま水洗いして、まな板代わりに新聞紙を敷いた上で待機だ。

フライパンに油を引いて、麺を投入。

ここで焦っちゃいけねえ。

まずは麺に少し焦げ目をつけるのが、オイラ流のこだわりだ。

カリッとした部分が、後でソースを吸って最高の食感になるんだから。

そして、ここで登場するのが「魔法の粉」こと、付属の粉末ソース。

 屋台の兄ちゃんたちは液体ソースをジャバジャバかけて

「ジュワーッ!」なんて威勢のいい音を立ててるが、ありゃあ火力が

なきゃベチャベチャになるだけだ。

この貧乏四畳半の、今にも消えそうな弱々しいコンロの火には、

粉末ソースこそが至高。水分を飛ばしながら、麺の一本一本に

スパイスの旨味をコーティングしていくんだ。

さあ、ここからが腕の見せ所だ。 粉を振りかけたら、もう必死よ。

ぼーっとしてると、真っ白な麺と、ソースの塊がついた真っ黒な麺の

「地獄の斑模様」ができちまう。

左手でフライパンを押さえ、右手で菜箸を猛スピードで回転させる。

腕の筋肉が悲鳴を上げ、乳酸が溜まってくる。

これぞ、美味いものを食うための儀式。

野菜をドサッと投入して、さらに煽る。

 熱気が四畳半の狭い空間に充満して、メガネが真っ白に曇る。

でも、その向こう側に、屋台の幻が見えてくるんだ。

仕上げに、冷蔵庫の隅で出番を待っていた紅しょうがを、

これでもかってくらい山盛りに乗せる。



皿に盛れば、そこには宝石箱ならぬ、ソース色の小宇宙が広がってる。

 一口啜れば、スパイシーな香りが鼻を突き抜け、シャキシャキの野菜と

モチモチの麺が口の中でサンバを踊り出す。

紅しょうがの酸味が全体を引き締めて、もう止まらねえ。

「う、うめえ……っ!」

思わず独り言が漏れる。

この圧倒的なボリュームと、自分で汗かいて作った達成感があれば、

そこいらの屋台には負けちゃあいねえ。

窓の外はすっかり暗くなって、冷たい風が隙間から入り込んでくるけど、

オイラの胃袋と心は、この一皿でパンパンに満たされてるのさ。

次は、残った最後の1玉を使って「目玉焼き乗せ」に挑戦してみようかと

思ってる。



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